先日は文部科学省をこきおろしたので、今日は誉める(?)。
大学授業の丸投げ禁止、来春から設置基準を厳格化……文科省
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070512i101.htm
今や大学には、外注の授業というものがあるのですな。過去ログにもあるのだけれど、私は以前、埼玉の某大学で「文章表現法」という授業を受け持っていて、これがまさしく外注の授業であった。教育コンサル会社が予備校講師を集めて教室に送り込み、カリキュラム作りから成績評価までをパッケージにして売っていた。学部当局との会議は一応定期的におこなわれていたから、文科省が想定する設置要件は満たしていたことになるのだろう。
大学で完全丸投げがおこなわれているとすれば、おそらく、導入教育の段階ではないか。工学部なのに物理や数学ができない学生のために、元高校教師が補修担当として雇われている、なんて話はよく聞く。この「補修」は授業なのか何なのかよくわからないが、ともあれ、外部から人材を入れなければ多くの大学で導入教育が成立しないという現状は確実に存在する。あと、なるほど英会話やらパソコンやら、実技系・資格系の授業では、完全丸投げはありそうだ。
いずれにせよ、崖っぷち弱小大学にとっては嬉しくない話だろう。何もかも専任教員にやらせようとしたら、過剰労働で授業全体の質が劣化することは目に見えているし、かといって外注で処理しようとしたら、それなりにお金がかかるうえに、文科省からも監督され、やっぱり手間がかかるわけだから。まあしかし、杜撰な丸投げに頼って、大学当局がいまどきの学生と向かい合うのを回避しているケースって多々ありそうだ。そういう意味では、文科省の判断は時宜を得たものだと言えよう。
もっと大きく見れば、これは小泉改革への反動で、文科省がいくらか権限を取り戻して規制を強化し、大学の整理統合を促す布石と見える。なんだか、総務省における市町村合併みたいな話だね。
ところで、予備校や資格学校やコンサル会社が授業運営を請け負うとなると、これは確かに外注的性格が強いということになるが、では、非常勤講師に授業をまかせるのはどうなのか? これは外注なのか、違うのか? 法人なら外注になり、個人なら外注にはならないのか? なんで??? だいたい、専任講師だろうが非常勤講師だろうが、大学の教員は、授業内容に関して他の教員から干渉されることなど、まずありえない。科目の名前が与えられて、内容は各自勝手に考えてくれ、というのが実態である。「大学自治」だかなんだか知らないが、それが不文律になっている。成績評価に関して事務方から注文が来るくらいが関の山だ。もちろん、私などはそうした慣習のおかげで助かっているとも言えるし、予備校のような緊張感が味わえないのでいささか拍子抜けしているとも言える。露骨に能力評価してくれた方が、ひょっとしたらメリットは大きいかもしれない。
ともあれ、そう考えると、大学では実はほとんど全ての授業が「丸投げ」されていると言っても、そう外れてはいない。逆に、教員間で授業についての意見交換が可能であり、導入教育も自前で設計できるなんてのは、有能な人材を専任教員として多数抱えている、超有名大学に限られよう。今後とも生き残るのはそうした大学であり、対するに崖っぷち弱小大学は、真綿で首をしめられるように、じわじわと苦しむ羽目に陥っている。今回の文科省の判断は、どの大学に対しても同等のサービスを要求し、大学間格差の解消を狙っているように見えながら、その実、多くの大学にとって達成不可能な設置基準をあえて提示して、大学間格差を拡大させる、というか、弱小大学を潰してしまうのが狙いなのかもしれない。