Introduction ―― 王様と乞食
ある晴れた日のことです。通りを歩く裸の王様を目にした子供が、「王様は裸だ!」と叫びました。すると、隣にいた女の人が「しーっ!」とその子を叱りました。黙ったその子を見て、女の人は微笑んで、ひそひそ声で言いました。「そんなことはわかっているのよ。王様は本当は裸だけど、あえて、服を着ているかのようなつもりで、出迎えなければならないの。」「どうして?」「どうしてって、その方が楽しいじゃない。あたしたちが、王様は着飾っているって信じてあげている間、王様は王様でいられる。でも、あたしたちが信じるのをやめれば、王様は王様でいられなくなる。つまり、あたしたちが、王様を王様にしてあげているの。そう考えたら、楽しいでしょう?」子供は、なんと返事してよいかわかりませんでした。王様は立ち止まり、街のみんなの歓声に応え、手を振っています。そのときです。いつもはみすぼらしい恰好をしている乞食が、なんと、王様が着ているはずの服を着て、通りを歩いてくるではありませんか! いあわせた街の人々は、その姿に仰天し、顔を見合わせました。ささやきあう人々を尻目に、乞食はとうとう王様の目の前までやってきて、立ち止まりました。王様は呆気にとられ、言葉を失いました。すると子供が、乞食を指さして大笑いしながら、叫びました。「ニセモノの王様だ!ニセモノの王様だ!」街のみんなも、つられて笑いそうになりましたが、それでも、笑うことができませんでした。なぜって、さしむかいになっているふたりを見比べて、服を着ている方がニセモノで、服を着ていない方がホンモノとは、なんだかおかしなことに思えたからです。みんなは、笑うに笑えず、ヘンテコな顔になってしまいました。ただ子供の甲高い笑い声だけが、青空に響き渡りました。