SPAC公演、イプセン作、鈴木忠志演出「幽霊」を観に、静岡県・舞台芸術公園へ。
「人形の家」の主人公ノーラが戯曲「幽霊」を執筆しているという設定で、「人形の家」と「幽霊」が同時進行するという、入れ子仕掛けの演出。「幽霊」の悲劇を対象化することによって、ノーラが再生を遂げると見える。ヘーゲルの言う「知」の弁証法的展開とは、まさにこのことではないか、と感じさせる演出である。やはり大家というのは、自然とヘーゲリアンになるのだろうか(笑)。ともあれ前回の「別冊谷崎潤一郎」と並び、リアリズム解体後におけるリアリズムの再構築を狙う鈴木演出の新境地は、なかなか見応えのあるものだった。
終演後、鈴木御大と少しだけ喋る。「大岡は、いったい、何がしたいんだ。もう30越してんだろ?」「はい、もうとっくに」「じゃあ、細かいことごちゃごちゃやってないで、どうにかなれよそろそろ」などと叱咤される。そうなのだ、どうも私は演劇ファンだった10代の頃の感覚が未だに抜けておらず、この業界で仕事ができるなら何でも喜んでやってしまうようなところがあるのだ(性格的に断るのが下手だということもある)。演劇を観るのが好きで演劇業界にコミットする人間というのは、批評家を別にすれば、意外に数が少ない。だから、たまに色々な芝居を観まくっている俳優さんと知り合うと、意気投合することにもなるのだが。
30代にふさわしい大きな仕事ってなんだろうと、御大に言われるまでもなく日々考えているのだが、今日の演劇はエンタメでしかないので、私のようなタイプが、この業界の陽の当たるところで派手に立ち回るのは不可能だ。とすると、やはり、本の1冊でも仕上げるしかないだろうか。
そういうことを考えるにつけても、浅羽通明が30代前半で『ニセ学生マニュアル』3部作を仕上げた体力は相当なものだったなあと、感心してしまうのである。