私がこの投稿を書いている2018年4月21日時点で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は核実験場の閉鎖を宣言したと報道されており、トランプ大統領と金委員長によって米朝融和が進みつつある現状に世界中が驚いているわけですが、歴史をきちんと学習すれば「さもありなん」でありまして、というのも、トランプ大統領はいかに奇人変人と見えようとも本質的には、存外正統的な共和党の大統領であるから、というのが私の見立てであります。以下に引用するのは、昨年(2017年)8月にFacebookに投稿した文章のコピペです。さすがに北朝鮮の動きまでは予想できませんでしたが、トランプの「タカ派と見せかけながら平和を探る」外交姿勢については、我々なりに予想できていたかと思います。これは、マスコミのように彼の一挙手一投足ばかりに注目していてはわからないことですが、うんと大局的に見て、アイゼンハワー、ニクソン、レーガンといった戦後の共和党大統領の系譜の延長にトランプを位置づければ、腑に落ちることではないかと思います。

 一方、金正恩について、マスコミに登場する北朝鮮ウォッチャーなる人々は、あのようにアクロバティックな外交を展開できる指導者であるとは、誰ひとりとして予想できていませんでしたね。マスコミとて商売ですから、日本人のナショナリズムをくすぐる好戦的な論評が好まれた結果でしょうけど、「狂気の独裁者」云々という床屋政談なら、新橋で飲んでいるサラリーマンでもできることですから、ウォッチャー諸氏はもう全員さっさと廃業した方がいいんじゃないかと思います。おそらく、この右傾化の中で北朝鮮情勢を語ることを嫌い、マスコミに露出しなかった(あるいは、したくてもできなかった)研究者や知識人の中に、金正恩外交について正しい予想を立てていた人がひとりふたりはいるはずです。そのような人物の「名誉回復」がこれから必要になるのではないかと思われます。
 
* * * 以下Facebookより引用 * * *
 
2017年8月21日

今更の報告となりますが、 鵜飼恵太先生との合同授業「アメリカ共和党の大統領は何をしてきたか?~ニクソン、レーガン、トランプをめぐって~」が、河合塾コスモで無事に終了いたしました。

このテーマを設定したのは、マスコミではトランプはほとんど馬鹿扱い、狂人扱いされているわけですけど、政治家についてはイメージだけ見ていては駄目で、その実像を検証する必要があり、きちんと実像に踏み込んだ分析ができるのが、予備校や大学の役目であろうという問題意識によるものです。

で、私はこの間のアメリカ大統領選挙の様子を眺めていて、トランプが当選したらニクソンのような大統領になるのではないかな?と直感したことからこのテーマを思いついたのですが、もちろん私一人では到底扱い切れないので、ここは名物世界史講師に存分に語っていただこうと考えた次第でありました。

前半は大岡が、アイゼンハワー大統領退任演説(=軍産複合体批判:大岡追記)とトランプ大統領就任演説(=エスタブリッシュメント批判:大岡追記)の類似性を指摘し、この反「覇権」的な志向こそ、共和党系大統領の神髄ではないかと問題提起したうえで、ニクソンにフォーカスし、超タカ派のニクソンだからこそ訪中を実現し、冷戦下における勢力均衡による平和を実現したというお話をいたしました。

次に鵜飼先生が、「孤立主義」と「反知性主義」が、建国事情に由来するアメリカの二大潮流であり、その先に位置するのがトランプではないかと問題提起したうえで、戦後の共和党系大統領の系譜を総覧し、なかでもレーガンにフォーカスし、テレビ映えのするお喋り芸人に過ぎなかったレーガンが大統領にのぼりつめ、ゴルバチョフと交流を深め、核兵器を削減し、SDI構想によって冷戦を集結させる歴史過程を解説して下さいました。

後半は、主にトランプの今後を占うディスカッションとなりました。大岡としては、ソ連によるアフガン侵攻の歴史的背景を鵜飼先生が鮮やかに説明されたところが、さすがプロだなあと感動いたしました。プロに向かって「さすがプロだなあ」は失礼ですが笑。

終了後の打ち上げでも議論は続きましたが、やはりトランプは、差別的とか好戦的とか色々言われてますけど、決して異例でも何でもなく、「口では攻撃的なことを言って水面下では平和を探る」共和党系大統領の典型ではないかという結論に落ち着きました(ラテンアメリカに対してだけは強く出るというのも含めてモンロー主義的)。しかしこれは、単に時系列だけ追っていてはわからなかったことで、共和党系大統領だけをピックアップし、民主党系大統領と対比したからはっきりしたことであります。つまり「民主党の大統領が戦争をおっぱじめ、共和党の大統領が収拾する」というのが、20世紀アメリカ史の基本パターンなのですな。

しかし、ブッシュ父子がこのパターンから外れる存在であったため、もう30年近くに渡り「共和党系大統領の基本パターン」が見えなくなっていたわけですね。この基本パターンが忘却されちゃったことが、トランプ非難の背景にあるんじゃないかと、これは鵜飼先生の卓見であります。