若松孝二監督『17歳の風景~少年は何を見たのか』を観に、ポレポレ東中野へ。若松監督と宮崎学氏のトークショーがあって、宮崎氏が、60年安保の際のラジオの実況中継が迫真的で凄いものだったというエピソードを紹介していて、これは発見だった。高度成長以前の一時期、ラジオが国民的メディアとしての役割を果たしていたのだ。

映画は、母親を殺害した少年の旅路を淡々と追い続けるロードムービー。徹底して感情移入を排し、半分以上が、日本海沿いを少年が自転車で走る描写である。映画というよりは映像詩というべきか。裏日本の風景が美しい。友川かずきの音楽が節目節目で興を添える。私は友川ファンなのでこういうことは言いたくないのだが、彼の歌はちょっと雄弁に過ぎたような気がする。少年の心情を代弁してしまっており、映像の禁欲的なタッチと噛み合っていないように感じた。もっと勝手なことを歌った方が、異化効果が生まれて良かったんじゃないだろうか。

以前若松監督と飲んだ折、今の若者はなかなか他人と出会う機会がないから行き詰まってしまうのではないか、だからこの17歳の少年を、旅路の中で色々な人に出会わせてやろうと思った、とおっしゃっていたが、この出会いの演出が心憎い。少年は出会いの度に、物を言わず無視もせず、ただ相手の話にじっと耳を傾けるばかりである。そして、十字架の如く自転車を背負って少年が海へと向かうラスト。いやはや、若松孝二67歳、この精神の柔軟さはやはり凄い。