「物置小屋のドン・キホーテ」を観る。


汎マイム工房・黙戯「物置小屋のドン・キホーテ」ファイナル公演を観に、氷川台のスタジオP・A・Cへ。

「物置小屋のドン・キホーテ」は、あらい汎さんのレパートリーの一つであったのだが、体力的な理由で今回が最終公演だそうである。私は初見なのだが、長年かけて練られている内容だけあって、実に感動的な作品であった。「黙戯」とある通り、基本的に台詞は用いられず、身体の動き(マイム)だけで成り立つパフォーマンスである。一貫して、「死」の影に追われる滑稽にして哀切な男の心象風景を描いている。以下、備忘録として頭に残っている内容をメモしておく。

・箱から両手だけを出して、その両手で人形劇風に男女の恋と愛と性を描き、最後には女に唆された男が刃傷沙汰におよぶ。おそらく「マクベス」であろう。

・物置小屋の箱の中から、男が登場する。光を押し返してほどよい暗闇にとどまりつつも、懐中電灯でゴキブリを追いかけたりする。

・3人のガイコツのダンス。ブラックライトというのだろうか、宙にガイコツが舞い圧巻であった。

・風船と一緒に膨らんで破裂する男。

・男、箱の中から女の服を見つける。女の服に片腕を通し、1人2役で、亡き妻との日々(か?)を演じてみせる男。ピクニックに出かけ、ワインを傾ける2人。蜜月が続くかと思いきや、気持ちのすれちがいは諍いへと展開し、ついに男は女を絞め殺してしまう。なんとも悲しい場面である。

・朝、箱の中で目覚めて、朝食をとり、着替えて鞄を持って出勤し、仕事をして(なぜか鞄の中から積み木を取り出してちょっとずつ組み立てるだけ。働くことの無意味さを表しているようで、ここはやたらにおかしかった)、帰宅し、風呂に入り、夕食をとって就寝。これを何度も繰り返すが、段々とスピードが速まってゆく。最後、男はとうとう死んでしまったかのようである。

・前述の場面に続き、骨壷を持った3人の喪服の女が登場し、舞台上に残った積み木を遺骨に見立てて、3人で遺骨の奪い合いをする。この場面の、3人の息のあったアクションと、人生の奥深さを感じさせる情趣は、素晴らしいものだった。

・そして終幕、箱を開ければボンッと煙が上がり、あたかもパンドラの箱を開けたかのように、中から亡霊たちが次々に飛び出してゆく(という様子が汎さんのマイムで表現される)。自身も死地に赴かんとする男は、黒いビニールに舞台が覆われる中、そこから頭だけを出して、自らも天へと上昇しながら、去りゆく亡霊たちに呼びかける。「……中村!……井上!……遠藤!」そう、男は、既にこの世を去ったかつての盟友たちに呼びかけているのだ。

終幕の印象から言えば、これは、高度成長を支え勤勉に働きながらも、人生の終わりに際して居場所なきドン・キホーテと化してしまった、日本のサラリーマンたちを描いているのかな、と思えた。解釈はともあれ、マイムという表現形式と日本的な生活情緒の間でうまくバランスをとり、泥臭い人生の哀歓を表現した名人芸と評することができよう。これだけの完成度を備えながらファイナルとは惜しい気がするが、最後の最後に目にすることができてよかった。これからも頑張って下さい!