いよいよ次の土曜夜・日曜昼、本郷の求道会館にて、ジョングルール・ボン・ミュジシャンのコンサート「時をかけるジョングルール」が開催されます。予告編として、上演台本の一部を公開します。
 

またあるとき、あっしは、ガスコーニュの酒場で、立派な騎士に会いやした。
「旦那、旦那、腰から立派なものをぶら下げておいでだね! 男の勲章だね! 女が黙ってないね、羨ましいね、へへへ! アラなんです、真っ赤な顔しちゃって。あっしが言ってんのは、その見事なツ・ル・ギのことさね、へへへへへ!」
「無礼者! 余は下世話な戯言は好まん、ジョングルールよ!」
「アラ、アラアラアラ、こいつは失敬。しかし、戯言の嫌いなお公家様が、なんでまたこんな酒場で油売ってるんです?」
「貴き身分といえど、しょせんは人の子。酒を飲みたいときもある。」
「ウン。そりゃあそうだ。神様の前じゃ、みーんな人の子だ。ひとりだけは別だけどね、ハハハ。で、今日はまた、どうして飲んでるんです? あっしでよけりゃ、話を聞きやしょう。」
「酒を飲んで、ある女を、忘れるためだ。いや……覚えておくためだ。」

ある日余は、生垣の傍らにて、羊飼いの娘を見ぬ。
さかしくも、見目麗しきかんばせに、たちまち心奪われぬ。
粗布のシャツ、毛糸の靴下、身にまとい、
寒空の下、すずろに彼方を見やるその姿。
嗚呼乙女子よ、乙女子よ! 我を忘れ、恥をいとわず、
つひに余は、生垣の傍らにて、羊飼いの娘に語りかけぬ。

 
ハイ、ここまで! この後は歌が続くんですが、本番のお楽しみ! ということで、次は、当日配布するプログラムに掲載する大岡の原稿です。割とネタバレですが。
 

ジョングルールは寅さんである。
大岡 淳

渥美清を主演に抜擢した、野村芳太郎監督の映画はどれも傑作だが、今テレビで放映したらお茶の間は卒倒するだろう。『拝啓天皇陛下様』(昭和38年)は歩兵ヤマショウが、軍隊は天国だから戦争が終わっても自分は残してほしいと天皇に直訴する物語。『続・拝啓天皇陛下様』(昭和39年)は、汲み取り屋の“ウンコの善さん”が軍犬部隊に配属され、戦後は知恵遅れのパンパンと所帯を持つ物語。そして『拝啓総理大臣様』(昭和39年)は、落ち目の芸人の角丸が、黒人兵と日本人の混血児である娘と、漫才コンビを組む物語。どれもこれも「差別」のオンパレードである。もちろん、たとえ身分に貴賎はあっても人間に貴賎はないというヒューマニズムを主題としているのだが、今なら「差別」を描写したというだけで放送禁止だろう。息苦しい世の中になったものだ。野村芳太郎の弟子・山田洋次監督の『男はつらいよ』シリーズ(昭和44年~)では、渥美清はごぞんじテキ屋の寅次郎に扮する。今度はヤクザ者だ。つまり彼は一貫して、差別される存在を演じていたわけだ。ところで、ヨーロッパ中世の民衆は、身分制度でがんじがらめになりながらも、時にはヤクザな放浪芸人たちの奏でる音楽を楽しみ、風通しのよさを感じていたかもしれない。今回は、そんな世界を演出したつもりである。ひととき浮世を忘れて、お楽しみ下さい!

 
ということで、興味が湧いた方、まだチケット予約を受け付けております! 夏らしくなって参りましたが、西洋中世にタイムスリップし、古楽器の涼しい音色をお楽しみ下さい。

チケット予約はこちらから → http://jongleur-japon.com/
よろしくお願いいたします!