君と世界の戦いでは、世界に支援せよ

 

今年も、鳥取で、鳥の劇場が主催する、鳥の演劇祭に参加することになりました。今年は鳥取県立倉吉東高等学校演劇部の生徒たちとの共同作業により、大岡が考える、理想的な「高校演劇」を作ってみました。様々なテキスト、様々なムーブメント、様々なシークエンスが交錯する中から浮かび上がる、2012年の「青春」。愉快で、純粋で、美しくて、残酷で、脆くて、儚くて……そんな一夏の心象スケッチ。まさにこれこそ「高校演劇」ではないでしょうか。必ずお楽しみいただけると思います。

タイトルに据えた「君と世界の戦いでは、世界に支援せよ」とは、カフカの警句を文芸批評家・加藤典洋氏が訳し、御自身の著作のタイトルとされたフレーズです。後から気づいたのですが、私がこのフレーズに魅了されたのはまさしく10代の終わり、80年代末のことでした。管理教育や受験戦争が激化すると共にそれへの批判も高まっていた状況で、双方に対して違和感を覚えた私は、「世界に支援せよ」という逆説にこそ、共感を抱いたのでありました。この逆説は、詩人・石原吉郎がシベリアの強制収容所で見出した「ペシミストの勇気」に近い。強制収容所では、一切の希望を退けることが、むしろ生き延びる知恵だったのだそうです。

今を生きる少年少女たちは、どうなのでしょう。もっと絶望が深いのかもしれないし、もっと希望に満ちているのかもしれないし、あるいは、そのように若者の精神状況をひとくくりにして語ること自体、そもそも意味のないことなのかもしれません。そこはなんとも言えないのですが、ともかく、私の目から見た彼らの像と、彼ら自身が描く彼らの像を、重ねてみた結果が、この舞台です。なにか深刻なメッセージがあるわけではありません。サスペンスフルな物語が展開するわけでもありません。ただ、あなたの目の前に立ちすくむ「青春」を――それだけを見に来て下さい。

●構成・演出/大岡淳

●出演/鳥取県立倉吉東高等学校演劇部

●日時/2012年9月22日(土祝)23日(日)12:00開演

●会場/議場劇場(鳥取市鹿野町総合支所)

●料金/大人1000円・高校生以下無料

●チケット予約/鳥の劇場 0857-84-3268

●鳥の演劇祭5ウェブサイト/http://www.birdtheatre.org/engekisai/