『ロダンと朗読とピアノの午後 ~初秋の夢のひととき~』終了。


発売と同時にあっという間にチケットが完売してしまったので、あえて告知しませんでしたが、去る9月13日に、静岡県立美術館+静岡県舞台芸術センターの共催で『ロダンと朗読とピアノの午後 ~初秋の夢のひととき~』と題した公演をおこない、構成・演出を担当しました。平日午後の本番であったにも関わらず、盛況のうちに終了いたしました。

タイトルからおわかりの通り、今やSPACの人気シリーズとなった「SPAC俳優による朗読とピアノの午後」を、初めて劇場の外で演じた、出張公演でした。会場は静岡県立美術館のロダン館。ロダン彫刻のみを展示した空間としては日本最大規模だと思いますが、ここで、あの大作「地獄の門」をバックに、朗読とピアノ演奏のコラボレーションに挑戦しました。

テキストは、夏目漱石の小説「夢十夜」をSPACの奥野晃士さんが、萩原朔太郎の詩「旅上」「再会」をSPACの石井萠美さんが朗読。ピアニストは、浜松出身で、クラシック界の第一線で活躍しておられる仲道祐子さんに御登場いただきました。

シベリウス、バッハ、ショパン、ベートーベン、シューマン、ラフマニノフ、モーツァルト……。ロダン彫刻が並ぶ荘厳な空間の中、朗読と有機的に絡み合った演奏の数々は、本当に素晴らしかったです。とりわけ、ショパンの「雨だれ」の奥深さ、ラフマニノフ「鐘」の力強さ、モーツァルト「トルコ行進曲」の軽快さに打たれました。仲道さんの、音楽に向き合うストイックな姿勢、強靭な集中力、豊穣な表現力から、多くを学ばせていただきました。

仲道さんが所属されているジャパンアーツさんのサイトに、報告をアップしていただきました。きれいな写真入りで、丁寧に御紹介いただきました。こちらからどうぞ。また、SPACサイト内の萠美嬢のブログにも報告がアップされています。こちらからどうぞ。

芳賀館長、神尾副館長、担当内田さんはじめ、県立美術館の皆様には大変お世話になりました。ジャパンアーツの皆様からも多大な御助力を賜りました。芳賀徹先生からは「『夢十夜』の新しい解釈が引き出せる公演だった」とお褒めの言葉を頂戴し、恐縮してしまいました。学芸員の泰井さんからは「ロダン彫刻からインスパイアされたことがはっきり伝わってくるパフォーマンスだった」という感想を頂戴し、嬉しい限りでした。身体と空間の相互作用にこだわる我々にとって、パフォーマンスとは常にサイトスペシフィックな性格を帯びております。彫刻と朗読と演奏を、あの空間の中でいかにして調和させるかというのが、まさに演出の課題でありました。結果として、漱石・朔太郎とロダン、そしてクラシックの楽曲が交錯する中、日本人が「西洋近代」と必死に、いやむしろ滑稽に格闘する姿(この滑稽味は奥野さんだからこそ出せたものですが)が浮かび上がってきたことが、このパフォーマンスに奥行きを与えていたと思います。

「朗読とピアノの午後」は、俳優さんが自分でテキストを選ぶ企画なのですが、今回は初めて、演出担当者である私がテキストを選びました。満を持しての挑戦となったわけですが、本番を終えて、次につながる手応えを得ました。かつては、舞台の本番を終えると「嗚呼しかしこんなことをいくらやったところで、何にもならないよなあ……」なんて虚しさに襲われることが度々でありましたが、最近はそうでもなく、今回は本当に決定的でした。すべて歯車が噛み合ったときは、こんなふうに気持ちよく本番を終えられるものなのですね。いやらしい言い方に聞こえるかもしれませんが、これでまたプロフェッショナルとしての階段を一段上がったような気がします。年配のお客様方にご満足いただくという課題に集中したことが、功を奏したと言ってもいいでしょう。

目の前にいるお客様方に、ただふだんの自分のままで楽しんでいただくのではなく、ふだんの自分を一歩飛び越えたところで楽しんでいただく。そのことは、おそらく、人間の精神を陶冶するという価値を持つ。これが、舞台芸術をプロフェッショナリズムとして洗練させることの意義ではないか。仲道さん、奥野さん、石井さんから、そんなことを教わった気がします。