昨日の日記の続き。

選手を退いてコーチに徹しているのが今の自分の気分なのだが、時に、もう一度現役に復帰してマウンドに立たないか、というような悪魔の誘惑を口にする人がいる。多くは書けないが、私に演出を依頼している某団体の場合がまさにそうだ。しかし、そういう団体に限ってお金のアテなど何もなかったりするのが、毎度のパターンである。しかも某団体の場合は厄介なことに、典型的なゴロツキがひとり絡んでいるのだ。このところ、その団体の企画は自然消滅するかな、しかしそれを黙って見過ごすのも義理を欠くかな、などと思い悩んでいたのだが、なんと日付が変わって今日の深夜、突然、舞台業界の重鎮T氏からこの件についての電話を貰って驚いた。T氏は私が某団体の企画に絡んで困っている事情を察しており、よければこの話は自分に預けてくれ、とまるで博徒の親分のような貫禄でおっしゃるので、はい、では親分のお取り計らいに従います、どうぞよしなに、と返事して電話を切る。T氏がおもむろに私に電話をくれたのは、もちろん私ごときを心配しているからではなく、件の某団体の行く末を慮ってのことである。電話の途中でT氏に、オマエはどこまでのことができる男なんだ?と問われ、しどろもどろでまともに返事をすることができなかった……。このどうということもない小さなエピソードは実のところ、演劇業界の裏の裏で進行している事態を反映した奥の深い話なのだが、これ以上のことをこんな場所で書けるわけもない。別に墓場まで持っていくような話ではないから、そのうちどこかで書く機会はあるだろうけど。

そういえば以前、とある地上げ屋の個人事務所と化している某劇団事務所(世の中にはそんな場所があるのだ!)でアルバイトをしていた時期があるが、このときも足抜けするタイミングを逸して困り果て、結局、業界の重鎮Nさんにお願いして助けてもらったことがある。

今日のT氏の一件で改めて思ったが、あんな貫禄のある年寄りに自分もなってみたいものである。若い者が軽挙妄動に走ったら、これを一喝し、事態を収拾する。これこそ、年寄りにしかできない芸当であろう。