「声の漬物」に出演する。


「声の漬物シリーズ1」無事終了。

前半は「武満徹の旋律による、歌への試み」。表面的な印象はポピュラーソングっぽいが、詞にも曲にも深みがあって、これらの歌曲はたぶん、都市化・工業化・機械化が進みコミューンが解体されてしまった現代日本において、敢えて「民謡」を成立させようとする創作実験なのではないか。ただしこの「民謡」は、谷川俊太郎の詞にしても武満の曲にしても、「民謡」でありつつどこかモノフォニックに聞こえる危うさを孕んでおり、これがまた魅力となっている。

かのうよしこさんと小阪亜矢子さんのデュオによるアカペラ「死んだ男が残したものは」、かのうさんがドイツ語で歌いまくる「Waltz」、ピアノの神田晋一郎さんの「雨の樹 素描」の演奏など、特に印象深かった。この音楽家たちの優れている点は、決して目線が高くないところだ。さあ有難いクラシック様のお通りよ、お聞きなさい、というバタ臭い高慢なところがなく、地を這うような、等身大の目線から〈歌〉を立ち上げようとする感性に溢れている。しかし〈歌〉とは本来そうやって生まれたものかもしれない。かつて高橋悠治が、現代音楽の臨界を踏み越えて「水牛楽団」への移行を果たしたのも、同様の理由からではなかったか。こうした感性に、私は大いに共感を覚える。演劇もまた本来は、街角の人だかりから自然発生するものだからだ。

後半は「谷川雁のテクストによる、歌への試み」。まずは、原牧生さんによる、自作の詩「GT2005」の朗読と、小森慶子さんのソプラノサックス演奏によるインプロヴィゼーション。なによりこの詩の内容が素晴らしい。谷川雁のライフ・ヒストリーを簡潔に表現し、且つ、その本質を抉ることに成功している。コミューンの夢を詠い、敗北せるアナルコ・サンジカリスト。原さんと小森さんとのコラボレーションも、なかなか巧みに噛み合っていた。

次に歌曲集「白いうた 青いうた」。河崎純さんが全曲を実にかっこよくアレンジしており、まずはアレンジメントの力というものを痛感した。かのうさんの歌、河崎さんのコントラバス、小森さんの管楽器というトリオで進行する。3者が曲間に即興を織り交ぜつつ、力強く〈歌〉を紡いでゆく、なんとも感動的なひとときであった(実際、聴衆からも大きな拍手が沸き起こっていた)。武満徹が〈個〉から出発し〈個〉へと還ることで、逆説的に共感を呼びうる「民謡」を志向したと考えるなら、谷川雁は、〈集団〉的であること、コミューンに根ざすことに徹底してこだわりながら、それでいてふと気がつくとひとりぼっちになっている、という「童謡」を志向したように思えた。その根底には、存在論的な「畏怖」の念が潜んでいるかのようだ。

最後に、河崎純さんがこのコンサートのために作曲した新作シアターピースが登場。演奏家全員に加えて、パフォーマーとしてメイコさんと大岡が参加。私ら2人はミュージカル・ユニット「チューインガム過激弾」の戦友であり、かつて神奈川県民ギャラリーでマヤコフスキーの「ズボンをはいた雲」をパフォーマンス化したこともあるコンビである(あのときメイコは中学2年生だったが、今回は大学1年生である)。この新作は、音楽的には本当に素晴らしい内容だった。現代音楽というジャンルが、あれだけ愚直に音楽史を踏まえて形式的な実験を繰り返しているのに、どこか根本的な退屈さを孕んでいる(それはおそらく、あれこれ自己批評しながらも結局「現代音楽」という枠組を脱することのできない、自家撞着の退屈さであろう)のに対して、河崎さんの作曲は、おそらくは現代音楽という西洋的なパラダイムに縛られていないだけに、そうした限界を突破している潔さ、清々しさ、新しさを感じる。今日の新作の場合、5楽章という古典的形式によって構成されているため、却ってますます現代音楽との相違が浮き立ったように思った。

メイちゃんと私は、第1楽章は散文「農村と詩」の朗読、第2楽章は何もせずただ座っているだけ、第3楽章は詩「毛沢東」の朗読、第4楽章はメイちゃんによる掌のダンス(大岡はただ30秒間隔でジャンプするだけ)、第5楽章は「●●を介した革命」を主題としたパフォーマンスをおこなった。全体を通して、我々のパフォーマンスは掛け値なしに「アングラ演劇」だったと思うのだが、どうだろうか(笑)。まあ内容はともかく、曲の印象を損なわないようにしながら、かつ有機的に連動してパフォーマンスを展開するという課題は、かなりきれいにクリアできたように思う。これはもう、以前、現代音楽劇『責めありや 責めなきや』で苦労した成果である。

アンケートをとらなかったので、聴衆がどう感じたかはわからないが、これだけの内容が詰まって2,500円というのは、かなりお得で、贅沢なコンサートだったのではないだろうか。若手の芸術家が集まって現代日本の〈歌〉を捉え返す試みが自然と成立してしまうあたり、企画者であるかのうよしこさんと、河崎純さんの力量の賜物であろう。ぜひまた参加してみたいし、一聴衆として楽しんでみたいとも感じた、素敵なイベントであった。

※ かのうさんの日記にも、既にエントリーがありました。http://k-y.jugem.jp/?day=20050717