結婚しました。


ミクシィから来訪された方は、大岡が珍しくバトンでもやっているのかと思われたのでしょうが、そうではなくてリアルです。5月3日に婚姻届を提出しました。大岡は今月40歳になりますが、とうとう旦那さんになります。

「結婚」とか「家族」とかは、本来多様で自由であるべき個人の生き方を、法と道徳によって縛りつけ、資本主義というシステムを再生産するための装置である、と、20代の頃は考えていました。つーか、大学に入って初めてフェミニストのお姉さんたちに出会い、「ええっ、“幸福な家庭”を築きたいなんてバカなことを思ってるわけ、チミは?」と笑われ、以来トラウマになったんですな。そして慌てて勉強した結果、「結婚」とか「家族」とか、あるいは「法律」とか「道徳」とか、はたまた「宗教」とか「芸術」とか、そしてそして「軍隊」とか「警察」とか、さらにどどーんと「国家」とか、どれもこれもみーんな資本主義を維持するための上部構造=イデオロギー装置である!(大声で)マルクス先生もレーニン先生もアルチュセール先生もそう言っている!!(さらに大声で)当たり前に存在しているように見えるものこそ、懐疑の目で見なければならないのだ!!!……ただし(ここから急に小声で)個人と個人の「恋愛」だけは、別。吉本隆明先生が「対幻想」はOKって言ってるから。

しかし私は大学に6年も在籍していたので、そのうち、勉強家として尊敬していた先輩同輩たちが、心酔している〈理論〉とは似ても似つかない〈実践〉を生き始めるということを、つぶさに見てしまいました。マルクスを学んで趣味に走るとか、サルトルを学んで内に籠るとか、フーコーを学んで結婚に走るとか、デリダを学んで抑圧的な人格になるとか。よく言われる「全共闘がみんなサラリーマンになった」ってのは、ああいう感じを言うんでしょうね。だいいち、ポール・ジョンソンによれば、マルクスやサルトルのような偉大な思想家たち自身、既に〈理論〉と〈実践〉が乖離していたということですから、仕方がないのかもしれません。もっとも私自身は、ベンヤミンに学んで就職を拒絶しましたから、一応〈理論〉を裏切らなかったつもりなのですが(笑)。ちなみに大学院に行かなかったのは、大学院こそ自覚なき転向者のふきだまりに見えたからです。

そんなわけで、左翼陣営の理論というのは、どうしてどれもこれも実践するのが難しいのか、崇高な社会正義を掲げながら、賎しい人間性に帰結してしまいがちなのはなぜなのか、と悩みつつ、数年前ニーチェやハイエクやアイン・ランドを読んでふと気がついたのですが、左翼の理論というのは、どうやら根本に、自分を犠牲にして他人を救うという倫理が存在している。それに対して、ニーチェやハイエクやアイン・ランドは、自分を犠牲にしろなんてのはインチキなお説教だ、できないことを説いて疚しさを人の心に植えつけるのはよくないことだ、人間には自分で自分を助ける力があるんだから、まずはその自分の力を恃むことから出発しなくてはダメだ、という、実に健康な思想を唱えておりました。これに触れて私は、ようやく、はじめて、とうとう、近代という時代の偉大さを知った気がいたしました。近代的な自我、近代的な主体、近代的な個人、近代的な自由……とは、こういうことだったのですね。そんなこともわからずにポストモダンとか言っちゃってたんですな。ああ恥ずかしい……。

そこで私は、左翼を卒業し、正々堂々と思想転向したのであります。今は、以下のような単純な原則に従うだけでじゅうぶんだと考えております。

一、自分の力で自分を助けること。

二、余力があれば、他人をも助けること。

三、自分の力だけではどうしようもないときは、他人の力を借りること。

これらの格率を社会全体へと適用するなら、自由競争と相互扶助をほどよくブレンドしたルールがいちばんよろしい、ということで、私は共産主義も無政府主義も否定し、自由主義者にしてナショナリストへと転向いたしました。

今は「結婚」や「家族」については、個々人の自由意思に依存していては相互扶助は危ういと気がついた、人類の叡智の産物なのだろうと考えています。つまり、異性間による相互扶助を男女一対の最小単位でルール化した仕組み、でしょう。個々人の自由がそれによっていくらか束縛されるのは仕方がないことですし、それが見えない暴力の温床になるというようなことは、また別の問題として策を練るしかないでしょうね。そしてここに「育児」が加わる理由は、これに加えて異世代間の相互扶助を実現するための工夫でしょう。これらの営為の全てを仮に国家が担うとすれば、それは自由競争と相互扶助の均衡を破壊し、社会全体が著しく後者に傾斜することになりましょうから、やはり、個人と国家の中間で、「家族」ないし「共同体」がこれを担うのが適正だということになりそうです。

そんなわけで、これから誰に憚ることもなく、お嫁さんと一緒に、笑いの絶えない幸福な家庭を築くべく、邁進しようと思います。夫婦ともどもよろしくどうぞ!