今さらフランス日記の続き。


今はこちらの時間で1月11日の夜11時です。明日、日本に帰ります。

モンマルトルのおいしいパン屋さんで、今回のプロジェクトとは別件の打ち合わせをした後で、プラス・ド・クリシーから地下鉄に乗ったらたまたまパスカルと一緒になり、少し話ができたのでラッキーでした。「オマエの動きはきれいなんだから、ダンスの振付にもっと関心を持つべきだ」とアドバイス。そして「今日のウォームアップ指導は、女優たちじゃなくて、オマエに任せた」と言ってくれたので、最後に大役が来た!と勇んで引き受けました。パスカルたちの方法論に私自身の方法論を混ぜて、本番に役立つようなウォームアップを即興的に作ってみたのですが(もちろん英語で説明するしかないわけで、以前PARC絡みでアジアの学生さんたちを相手に、英語で演劇ワークショップをやった経験が役に立ちました)、終演後に、女優のセシルさんから「今日はあなたがやってくれたおかげで、アマチュア参加者たちがすごくよくなったわよ」と誉められ、また、最後の最後でアマチュアの人たちとも仲良くなれたので、なんというか、仕事としてきちんとした締めくくりができて本当に良かったです。でも女優さんたちとはあまり話をする時間がなかったので、今秋SPACに来てくれたときに、もうちょい親しくなれたらいいな。経済哲学者エリック・メシュランも「君に会えて本当によかった」と言ってくれたので、たいへん嬉しゅうございました。彼のような知識人に、アカデミシャンでもないのにこれだけ難しい議論についてくる東洋人がいるということを印象付けただけでも、よかったんじゃないでしょうか。って偉そうですが、いいじゃん実際頑張ったんだから! 明日は、劇場付カフェの名物マスター、アブデルにお別れを言うために、お昼は劇場に食べに行きます。気配りができて、腕の立つ料理人で、自分の仕事に誇りを持ち、毎日休みなく働いて3人の子供を育てている立派な男です。彼の「Jun!」という威勢のいい挨拶がもう聞けないかと思うと、ちょっと寂しいです。彼をはじめとして、気のいい人たちと楽しい時間を過ごすことができました。日本演出者協会国際部にいたとき、数多くの外国の演劇人をアテンドし、気持ちよく仕事をしてもらうのが私の仕事でしたから、なんだか今頃になってそのお返しが来たような気分です。

仕事で外国に来て、1ヶ月間滞在したのは初めてのことでしたが、自分にとって最大の発見は、外国にいるとノイズがシャットアウトできるので仕事に集中できるということでした。これだけの集中力を発揮してひとつの仕事に取り組んだのって、ひょっとして人生で初めてのことなんじゃないの、というくらい集中できましたね。もちろん、SPAC制作スタッフのバックアップがあったからできたことなので、組織に属しているメリットを痛感することにもなりました。いやはやしかし、本当に純粋に、今回の舞台のことだけを考え続けた1ヶ月間でしたわ。この芝居は表面的にはシンプルな作りなんですけど、裏に回れば、きっかけにしてもミザンセーヌにしてもやたらと複雑で、かつパスカルが毎日ディテールに変更を加えるので、最新情報を入手するだけで一苦労、演出助手のジルに全て聞けばいいなんて言われてたけど、却って手間取ることも当然あるので、あちらの役割分担が見えてからは、自分で走り回って情報を収集してました。

今秋の日本公演(静岡公演のみならず3公演とも)を成功させるのが私の使命なので、帰国後は全力を尽くします。また、在仏日本人の皆様には本当にお世話になりました。改めて御礼申し上げます。

ところで今回のフランス滞在で、自分個人の人生にとって大きな収穫となったこともあったんですが、それはまあ、案の定というか何というか、仕事とは関係のないことでしたね。つーか、今の私にとっては舞台を作ることは仕事であり、そして仕事と人生は別であり、仕事も大事だけど人生も大事で、その仕事が芸術だろうが舞台だろうが例外はない、と、要はそういうことですな。別に、フランス人たちがプライベートを大事にしているから影響を受けたというわけではなく、面白いことにむしろフランス人のいないところで、そして仕事とも関係のないところで、そんなことを再確認させられる出来事がいくつかありました。こういうことを言うとすぐに「ああワークライフバランスね」と切り返されてしまい、しかも小泉竹中に洗脳された最近の日本では、仕事の能率を上げることがワークライフバランスだってことになってるわけですが、人生に「バランス」なんてありえないでしょう。そしてもうひとつ、歳をとることが少し恐くなくなりました。落ち着いた気持ちで40歳を迎えようと思います。