フランスに出張しております。


この日記を投稿できるのは年末でしょうが、書いているのはクリスマス・イブです。

現在私は、フランスのパリ郊外に位置する、ジュヌビリエ Gennevilliers という街に滞在しています。SPACのお仕事で、ジュヌビリエ国立演劇センター芸術監督、劇作家・演出家パスカル・ランベール Pascal Rambert が演出する『踊る世界(小)経済史』 Une (micro) histoire économique du monde, dansée. というお芝居の稽古にたちあっています。2010年の秋に、このお芝居を日本の3つの公立劇場で上演することになっているのですが、出演者の大半がノン・プロフェッショナルで構成されるため、それぞれの劇場で出演者を集めて、日本の演出家がある程度までそのノンプロ出演者に稽古をつけるという形で、パスカルの演出助手を務めることになっています。SPACでも上演することになり、私がその演出助手に抜擢された次第であります。今回はその準備作業で、1ヶ月近く稽古におつきあいすることになりました。

こちらに着いた当初は右も左もわからず色々大変でしたが、アパルトマンの生活にも慣れ、近所の大型スーパーに通って自炊をエンジョイする日々であります。自炊といっても大した調理器具があるわけではないので、サラダやサンドイッチを作る程度ですが、それでもじゅうぶんフランスの食材を堪能しております。お湯で温めるレトルトもなかなか絶品です。特にバケットってのは、こっちで食べてると、日本の米と同じで中毒になりますね。

ジュヌビリエはパリ北東に位置しており、パリ市内を山手線内に見立てれば、だいたい板橋とか赤羽とかそのあたり、ということになりましょう。雰囲気もそういう感じですな。とすると、このジュヌビリエの劇場は北とぴあか!ということになり、新鮮味も薄れます(笑)。

私は、舞台人に徹することに色々な意味で抵抗を感じるところがあり、教育現場に片足を突っ込んだり、たまに物書きをやったりして、純然たる舞台人とは良くも悪くもズレた場所に身を置きたいと考えてきたわけで、たまに舞台から完全に離れて働きたいと思うこともあるわけですけれども、そのたびになぜか、お芝居を作る仕事に引き戻されて今日に至っています。今回のお仕事にしても、一度ヨーロッパの現場を覗くのも悪くないかな、という程度の気持ちで引き受けたのですが、あにはからんや、この『踊る世界(小)経済史』は大した傑作であり、改めて、自分が舞台に関わることの意味を問い直す機会となっております。パスカル・ランベールという演出家は、この作品で成功を収め、ヨーロッパ演劇界における地位をさらに一歩高めるのではないかと予想します。

このお芝居は、プロではない人々が舞台に上がり、シンプルながら強度を備えた身体表現を介して、プロの俳優とコラボするという作りになっていまして、私の演出作品を御覧になったことがある方はおわかりでしょうが、私自身が目指す方向性と多分に重なるところがあり、まさしく自分の先輩を見つけたような気がして、興奮しています。なまじ似ているところが多いだけに、そばで見ていてパスカルの優れたところがよくわかりますし、それはすなわち、今の私の演出家としての技量の中で、欠けているところを指し示してもいるわけです。宮城監督から、とてもよい修行の機会を与えてもらえたと思っています。

内容も、経済哲学者エリック・メシュランのガイドに従って、マルセル・モースの『贈与論』から出発し、現代のサブプライム問題までを一気に駆け抜けるというものでして、はっきり言って私が演出していても全くおかしくないです(故レヴィ=ストロースが観たらきっと喜んだことでしょう)。だからこれはもう、仕事だから関わっているということを抜きにして、私の作品でもあるんだ、と胸を張って言ってみたいところがあります。稽古場では専らディテールを把握することに追われているだけですけれども、せめて「あの日本人たちがいて稽古場の雰囲気がよくなった」と言ってもらえるように、新鮮な風を送り込む努力はささやかながらしています。この日記を投稿する頃には、エリックとふたりで議論する時間を作ってもらっているはずです。

それにしても、いっぺん、ヨーロッパで芝居を打ってみたくなりますな。もはや「文化芸術は西洋が本場だ」というふうにも思ってないですし、西洋から輸入(または逆輸入)されたものに猫撫で声で飛びつく日本人の劣等感には嫌悪しか感じないんですが、ただ、国境を越えて仕事をするのは楽しいことですし、私自身の教養はどっぷり西洋に漬かっていますので、これを活用できるのも嬉しいことです。来年40歳になりますので、40代のうちに国際共同製作といった趣向で、何かやってみたいとぼんやり夢想しています。