鎌田哲哉さんによる批評講座が終了しました。


月見の里学遊館で開催中の批評講座ですが、第3回「文学」篇は、文芸批評家・鎌田哲哉さんを講師にお迎えしました。

冒頭、そもそも表現とは、殺されたり罰されたりするとわかっていながら、それでもやるからこそ表現たりうるのだ、とのお話がありました。例えば、政治的な作家と見られがちな大西巨人氏も「芸術至上主義者」を自称しておられるそうで、その意味するところはつまり、作家の有しているイデオロギーの如何に関わらず、その作家が命がけで表現することを強いられる際、芸術的であることはそのまま政治性を帯びるということだ、と。いやー、これは応えましたね。私も表現者の端くれではありますが、果たして命がけの状況で発言し表現する覚悟があるかと問われると、いやはやどうも……。日和って転向再転向を繰り返す、いかにも日本的な腑抜けインテリにしかなれないんじゃないかという気がしてしまいました。とほほ。

次に、北海道の炭鉱、古河雨竜労組文学サークルが編んだ文芸雑誌『ひろば』21号を題材として、事前に参加者が執筆した批評文に対する講評に移りました。炭鉱の同人誌を扱うなんていかにも文芸批評の「正統」から外れているように見えるかもしれないが、しかし本当はこれこそが「正統」な批評なのではないか。例えば、小林秀雄には中野重治という、吉本隆明には武井昭夫という協働者がおり、その協働=運動の原点を切り捨てることによって小林秀雄も吉本隆明も文芸批評の「正統」に殿堂入りしたわけだが、むしろそこで切り捨てられた側の方が「正統」なんじゃないか。あえて文芸批評の概論を立てることを回避する鎌田さんが、その代わりに、ご自身の拠って立つところを明らかにされた瞬間でした。

さて鎌田さんは、そうはいっても小林秀雄は評価できる、なぜなら批評の対象として言葉そのもの、言葉の物質性を発見したからだ、とした上で、『ひろば』所収の諸作品を批評する際にも、時代背景より何より言葉そのものを批評の対象に据えねばならない、諸作品を十派一絡げにするのではなく、「分かることは分けること」であって、優れたものとそうでないものを分割せねばならない、それこそ批評が批評たりうる条件だ、と熱弁されました。そのうえで、ご自身だったらどのように『ひろば』を批評するかということを、1作1作について丹念に指摘されました。そして、その際の評価基準は、紋切型の言葉を退けているかどうかである。あるいは、単に経営側を批判するだけではなく運動内部の問題にまで目を向ける、苦い反省意識が作品の根底に働いているかいないかである。これには、受講者一同胸をうたれました。

また、この『ひろば』を逸早く発見し評価した批評家として、故・武井昭夫さんとその業績を紹介されました。武井さんは9月2日に亡くなられたばかりで、この講座は、表立っては語りませんでしたが、偶然にも時期が重なってしまったため、鎌田さんと大岡による武井昭夫氏追悼という文脈を併せ持つことになりました。武井さんは演劇批評も専門のひとつとしておられ、その関連で、実は私も親しくさせていただいた時期があったのです。商品劇場という劇団をやっていた頃、武井さんたちが運営する本郷文化フォーラムで連続イベントを開催して、武井さんにゲスト出演していただいたことがありました。武井さんたちの政治集会に顔を出して、不慣れな「インターナショナル」を共に歌ったこともありました。『未来』で、戦後演劇をめぐるインタビューをおこなったこともありました。戦後演劇に対する評価をめぐり、私は武井さんと多くの点で立場を異にしますが、しかしひとつだけ、私が武井さんからしかと継承した言葉があります。それは「演劇とは劇作家の思想と俳優の思想の激突である」というテーゼです。これは、演劇を身体論に回収する議論のつまらなさを射抜く、強靭なテーゼだと思います。このテーゼを、私は私の精神の核に据えておきたいと、改めて痛感しました。というわけで、偉大な先達の死を悼む機会を、偶然とはいえこのような形で設定できたのは良かったと思います。武井昭夫という批評家の、文芸批評における継承者は鎌田さんだろうし、演劇批評における継承者は不肖大岡である、とあえて言い切ってみたい誘惑にかられもしました。

閑話休題。そんなわけで、鎌田さんの緊張感あふれる言葉の数々は、慣習化された言動を繰り返すことで何となく生きることができてしまっている、私を含めた静岡の人間の魂に、本当にそれでいいのか!と檄を飛ばし、揺さぶるものでありました。これほど言葉の力というものを痛感したことは、これまでになかったような気がします。なんだか、背中を押された気がします。受講者の皆さんも、きっとそんな心境で家路に着かれたことでしょう。

鎌田さんご自身による『ひろば』論は、いずれどこかでお書きになるようです。こちらも楽しみですね。

批評講座、次回最終回は、社会学者・大澤真幸さんによる「映画」篇です。11月7日15時から、月見の里学遊館でおこないます。『ハート・ロッカー』という映画を、事前にレンタルして鑑賞しておいて下さい。ご来場をお待ち申し上げております。